国際年金経済研究所のセミナー「国際年金フォーラム2002『創造』」に出席しました。主要なテーマは「コーポレート・ガバナンス」、「確定拠出年金」、「オルタナティブ投資」の三つで日、米、欧のスピーカーによって興味深い論点が提出されましたが、ここでは「確定拠出年金」に関するものだけを報告します。
Pentions& Investments誌編集長マイケル・J・クローズ氏の論点:
米国のDCプランに関する現在の最大の問題点は、401kプランに積み立てられた資産の退職後の運用である。退職すると401kから個人退職勘定(IRA)に資産を移すのが一般的なやり方であり、その結果IRAの残高(2.4兆ドル)は既に401kの残高(2.2兆ドル)や確定給付年金の資産(2.3兆ドル)を上回る規模に達している。問題はこうしたIRA資産の大部分が401K時代と同様に株式投信に投資されており、年齢の高い退職者にふさわしくないリスクをとっていることである。
従業員が退職後の運用に備えられるようファイナンシャル・プランナー(FP)に相談する費用を援助する企業もあるがそのような企業の数は多くないし、またFPにも株式投資偏重の考えをもつものがおり適切な助言をするとは限らない。今年、米議会は401K加入者が投資助言を得られるように企業が計らうことを奨励する法律の制定を行う可能性が強い。しかしながらその場合も投資助言の公正さが問題となる。たとえば運用商品提供業者が投資助言を提供することを許されるとなると、近くリタイヤすることを予定している人に手数料収入の高い株式投信から手数料収入の低い債券投信に乗り換えるように助言するかどうか疑わしいといわざるを得ない。
退職者にふさわしいリスク/リターンを持った商品の開発が求められている。デリバティブの活用によって、(1)低リスクあるいはゼロ・リスクの、(2)インフレ・ヘッジとなる、(3)株式市場のリターンを部分的に享受できる、(4)妥当なコストの、(5)保険としての、側面をもつ商品が理想である。通のDCプランや単独のDBプランよりはるかに優れた特徴を持つキャッシュ・バランス・プランは、2年ほど前までは人気があったが、企業が従業員の利益を犠牲にしてコストを軽減することに利用したため、従業員に大きな疑いの目で見られるようになってしまった。
米国においてもDCプランの毎月の積立額が少ないことが問題である。あるアクチュアリーの計算によれば、望ましい水準の退職後収入を確保するためには、35年〜40年の就労期間を通じて年間給与の最低13%を貯蓄しなければならないが、401K加入者の積立額は企業のマッチングを含めても平均9%に過ぎない。
Investment & Pensions Europe誌のリサーチ・エディター、R.ニューエル氏の論点
「英国における確定拠出年金の問題点」:
DCの普及が進み、大企業の39%がDCプランを採用しておりさらに大企業の17%が近い将来に導入することを考えている。DBプランのみを運営している企業は全体の1/3で、36%がDBとDCを併用、DCのみを採用している企業は30%である。
DBを運営している企業の3/4は向こう5年間にDCを導入する意向がないとする調査結果もあるものの、企業のDBからの撤退傾向は顕著でDBプランにカバーされている従業員の数は過去5年間に200万人減少し、今後もさらに減少することが予想される。
この数年間に9割近い企業においてDBプランのコストが上昇している。企業の40%は新会計基準FRS17の採用によるコスト上昇をあげている。FRS17はDBプランを継続している企業のみならず、DCに移行した企業においても過去の年金債務に深刻な影響を及ぼすだろう。
ある年金コンサルタントの調査によればDCプランの加入者の受け取る年金額はDBを30%も下回る可能性があるという。DCプランへの企業の拠出額はDBにおける拠出額を平均して3%下回っていると報告されている。調査対象となった74社のうちその半数がDCプランを営んでいるが拠出率は5%ないしはそれ以下であり、これに対しDBの拠出率は10%を超えていた。
DCにおいてはコミュニケーションが重要である。それは単なる情報の伝達にとどまらず、加入者がそれぞれの事情に応じて適切な資産クラスあるいは投信を選択することを助けるようなものでなければならない。
公的年金削減とDB衰退の趨勢の中にあって個人年金への移行は避けられないことであろう。DCプランは現在のところ、企業側にとっては低コストと低い財務リスクの観点から、従業員にとっては就労の流動性の高まりから、好まれている。しかし投資収益率が低くなると深刻な影響を受けるのはDCの受益者である。将来の年金額が不足するような事態が何百万と発生すればDCの概念の全てが信用されなくなる危険がある。
報告者の感想:
以上に紹介した海外からの2氏をはじめJTB厚生年金基金常務理事(企業年金連絡協議会会長)山口登氏、東京乗用旅客自動車厚生年金基金常務理事鈴木日出男氏その他のわが国の基金関係者の方々の、年金問題に対する真剣な取り組みが、今年で4回目のこのセミナーを質の高い示唆に富むものにしていました。残念ながら今回はわが国の確定拠出年金の現状を報告するスピーカーが欠けていましたが来年の機会に大いに期待したいものです。
なお、今回のセミナーの内容の全体の要約が国際年金経済研究所の月報IPERIの別冊として発行される予定です。
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